
鉄道事業を支えるシステムには、高い安定性と信頼性が求められる。JR九州システムソリューションズ株式会社は、25年以上にわたり駅管理端末システムの開発に統合開発環境「PowerBuilder」を活用し、重要な社会インフラを支えている。同社の顧客本部・第2部の高井大介氏と村山久美子氏にPowerBuilderの導入効果と今後の展望を伺った。
JR九州システムソリューションズ株式会社は、2003年にJR九州グループのシステム会社として設立した企業だ。元はJR九州本体のシステム開発を担当する一部門として発足し、その後、企業として独立した。設立以降、JR九州とグループ会社のさまざまなシステムの導入・運用を手がけており、現在はそこで得た知見や経験を活かして、JR九州グループ外の事業課題解決にも力を入れている。

「当社はJR九州の事業を支えるシステムの開発・運用を中心に、グループ会社のIT基盤整備から新規サービス開発まで幅広く手がけています」と語るのは、顧客本部・第2部の高井大介氏だ。同部門は、主にJR九州の駅の現場で使用されるシステムを担当しており、PowerBuilderを活用した駅管理端末システムもその中核をなす1つのシステムとして担当している。部門は6名体制で、開発以外に運用・保守も担当している。高井氏は、「駅は365日、始発から終電まで稼働しているため、システムトラブル発生時には即座に対応する必要があります。福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県の全駅をカバーする責任は決して軽くありません」と話す。
PowerBuilderは、1991年に初期バージョンがリリースされて以来30年以上の実績を持つ統合開発環境(IDE)だ。アプリケーションの高速開発/ローコード開発を実現する開発ツールとして、多くの企業で採用されている。 その特徴は、複雑なアプリケーションや帳票などを、部品やデータ項目を選択・配置する直感的な操作と最小限のコーディングによって開発することができる点にある。「データウィンドウ」機能によりデータ検索/更新に必要なSQL文を自動生成し、業務データを多様な形式で表示できるアプリケーションを、ローコードで効率的に開発することができる。
JR九州のPowerBuilder導入は、1990年代にさかのぼる。高井氏は、「システム導入当時の詳細な選定理由は現在のメンバーには正確にはわかりませんが、25年以上にわたって継続使用されている背景には、いくつかの要因があると考えています」と語る。
要因のひとつとして考えられるのは、PowerBuilderの開発プラットフォームとしての完成度の高さだ。特に、鉄道事業者特有の業務特性に柔軟に対応できる点と、統合開発環境として単独でさまざまな機能が実装されている点が高く評価されている。

長年の使用によってノウハウが蓄積されているという点も、大きな要因のひとつ。顧客本部・第2部の村山久美子氏は「私たちが管理しているシステムは非常に大規模なものですが、安定した品質を維持し続けられているのはこのノウハウのおかげです」と話す。バージョンアップの際、既存の資産を活かしながらマイグレーションできるという点も、評価が高い。実際の使用感において最も評価されている点は、先に述べたデータウィンドウ機能だ。村山氏は「画面上にデータを一覧表示させ、その内容をそのまま帳票にも流用できるため、とても使いやすい」と説明する。
画面の切り替え機能において、データウィンドウで複数枚の画面を作成しておき、選択された項目に応じて画面を切り替えていくといった実装が容易に行える点は、他の開発環境にはない大きな利点となっている。
PowerBuilderで開発している駅管理端末システムの機能はJR九州の有人駅等194の拠点、392台の端末で使用されており、主に各駅の運輸収入の実績を管理・集約する機能と、みどりの窓口での切符の発券機能を備えている。画面数は213、機能数は48、帳票数は53。前身のDOSアプリケーション時代の流れを汲みデータは全てファイルの入出力で管理しており、各駅の切符の発券情報を含む運輸収入の実績を日次でJR九州の基幹システムに連携している。
高井氏は、「駅管理端末システムは駅の収入実績を管理・集約する機能の他に、みどりの窓口でPOS券と呼ばれる切符を発券する機能も備えていますが、切符にはさまざまな情報が紐づいています。例えば、発券した日や駅、金額、片道乗車券・定期乗車券といった切符の種類、大人や子供といった属性情報や、どこからどこまで移動するといった発着駅情報等も含まれます。これらの各種情報は駅管理端末システムを経由してJR九州の基幹システムへと連携されます。その情報は運輸収入の把握だけでなく、統計データの把握にも利用され、JR九州の施策の検討や経営の意思決定のための重要な情報として役立てられています」と説明する。
また、西九州新幹線の開業やBRT(日田彦山線BRT「ひこぼしライン」)の導入など、JR九州の新たな施策に応じたシステム改修も継続的に行われている。「JRグループ共通の制度改正にも柔軟に対応しており、毎年のように改修しています」と村山氏は話す。
■駅管理端末システム メインメニュー画面

■駅管理端末システム 発券機能メニュー画面

小規模な改修については内製で対応し、大規模な開発は外部ベンダーと連携しながら対応するという体制が、長年にわたり安定したシステム運用を可能にしているという。
PowerBuilderを25年以上使用し続けることで得られた最大の効果は、システムの安定稼働だ。「社会インフラである駅を365日昼夜支える駅管理端末システムにおいて、既存バグがほとんどない状態を実現できていることは大きな成果です」と高井氏は話す。
また、OS更新などに伴うマイグレーションも比較的スムーズに行えており、システムの継続性を維持できている点も大きい。村山氏も「他の開発環境ではOSのバージョンアップ時に関連ツールも含めた複雑な対応が必要になることが多いのですが、PowerBuilderはオールインワンの統合開発環境のためPowerBuilderだけを対応させればよく、プロジェクト管理も簡単です」と評価する。 サポート面においても日本語での迅速な対応が受けられるため、開発効率の向上に貢献している。村山氏は、「日本コンピュータシステムのサポートには本当に助けられています。質問への回答が早く、解決策も的確で、私たちの業務をしっかりと理解してくださっていると感じます」と語る。
直近の展望としては、現在の駅管理端末システムをWindows 11環境へマイグレーションし、PowerBuilderのバージョンアップも併せて行うプロジェクトが進行中だ。「このプロジェクトは2025年3月から開始したばかりで、全体で16ヶ月の期間をかけて慎重に進めていく予定です」と高井氏は話す。25年以上にわたって駅の現場であたりまえに使われてきたシステムだからこそ、マイグレーションには細心の注意を払っているという。
JR九州システムソリューションズでは、JR九州およびグループ会社での知見を活かし、ITコンサルティング、システム開発、システム運用・保守、クラウドサービス、データセンター、総務シェアードサービス、プログラミング教室、ESG推進サービスなどのさまざまなサービスの外販活動も推進している。「プログラミング教室などの教育事業、ESG推進に関わる冷媒ガス管理、セキュリティソリューション、DX推進など多様な分野への展開が進んでいます」と高井氏。今後もPowerBuilderで培った開発ノウハウを活かしながら、さらに活動の場を広げていくことを目指している。
JR九州システムソリューションズでのPowerBuilder活用事例は、長期間にわたる安定稼働と、業務要件の変化に柔軟に対応できるPowerBuilderの開発基盤としての価値を示している。25年以上の使用実績がある大規模システムを高品質に維持できている点は、他社のシステム開発においても参考になる取り組みである。
「人材育成やノウハウ継承の取り組みを継続し、今後も安定したシステム運用と新たな価値創出を両立させていくことが、当社のさらなる発展につながると信じています」と高井氏は結んだ。 社会インフラを支えるシステム開発で培った経験は、他業種への展開においても大きな強みとなるだろう。同社の今後の展開にも注目したい。
プロフィール
会社名 JR九州システムソリューションズ株式会社
創立 2003年3月
資本金 9,700万円
従業員数 304名
Webサイト https://www.jrqss.co.jp/
取材月 2025年3月

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